【レビュー】ヴァンスカ&ミネソタ管のベートーヴェン:交響曲第4番&第5番
1.ベートーヴェン/交響曲第4番変ロ長調作品60
2.同/交響曲第5番ハ短調作品67
演奏:オスモ・ヴァンスカ指揮ミネソタ管弦楽団
私たちはベートーヴェン演奏が難しい時代に生きています。CD店やアマゾンのサイトを覗けばすぐに定評ある名演が手に入る現代では、現役のプロのミュージシャンは常に過去の偉人たちとの戦いを強いられています。世界記録を超えようと日々精進するアスリートのように、指揮者たちはより向上するために様々なことにトライしています。ある者は過去の名手を模倣し、またある者は最新の科学的知識を積極的に取り入れ、別の者は師の教えをひたすら信じ、またプレイヤー全員で助け合いチームプレーでアプローチしようとする者もいます。ヴァンスカとアメリカの楽団の場合はどうでしょうか。
このベートーヴェン演奏でヴァンスカがやろうとしているのは「楽譜に記載されていることを忠実に、しかも慣例に左右されることなく表現しよう」ということです。このような客観的かつ実証主義的手法は音楽界ではトスカニーニやカラヤンの専売特許ですが、ここでのヴァンスカは彼らよりも徹底していると思います。古楽演奏が盛んな時代に昔からの実証主義で聴衆を納得させるのは大変だと思うのですが、何のためらいもなくやり通したところがすごいです。「俺たちはこれでやる!」という一種の「開き直り」すら感じさせる潔さが伝わってきます。
楽器編成は楽譜の指示を忠実に守り最小限の人数に留めていると思われます。テンポについては途中で揺れたりすることは全くありません。まさにインテンポ。「第5番」の第1楽章の提示部の辺りを聴いていたらmidiファイルじゃないかと思うほどキッチリとテンポを保っています。それでも味気なさを感じることなく充実した演奏と感じさせたのは、ミネソタ管の合奏が素晴らしくキレてるからでしょう。各パートは実に明瞭かつ正確に弾きこなされていて曖昧さをどこにも感じません。ほんとに細かいところまでよく弾けています。精緻なアンサンブルは大音量になっても力強さを表現しつつも、秩序が崩れることがありません。「第4番」のフィナーレや「第5番」の第3楽章のトリオでのアンサンブルの圧倒的表現力は大したものです。あと「第5番」の緩徐楽章での旋律の歌わせ方は休符を意識していて、まるで体言止めの連続する文章を読んでるみたいですが、独特の感覚が味わえて興味深かったです。
この演奏が世界最高なのかどうかは聴かれた方各人の判断に任せるとして、少なくともヴァンスカたちは自分たちの出来ることを精一杯やり遂げたと思います。私としては何かメダルをあげたいところですが。
(BIS,BIS-SACD-1416, ASIN:B00076AE3U:CD-DA&SACD Hybrid)
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