クラシック音楽家のプロモーションの功罪
先日「フィナンシャル・タイムズ」紙に「演奏するブランド商品」というタイトルの長めのコラム(英語)が掲載されました。クラシック音楽界のプロモーションの現状と、演奏家がそのクオリティとは離れたところで知名度を上げることも可能なシステムについてのコラム著者(Andrew Clark氏)の雑感がミックスされた内容ですが、私の知らない欧米の音楽界の現状にも触れられていて興味深かったです。例えばイギリスでは中堅の音楽家がプロモーションに月1000ポンド(約20万円)払っているなんて知ってましたか?そして常に最前線に露出するためには月3000ポンド(約59万円)くらい必要らしいですよ。正に「ひょえ~」な金額ですね。それだけ稼いでいるアーティストならまだしも、そうでない方は毎月の支払いが大変でしょうね。そこまでして有名になりたいのか、というのが正直な感想です。
更にClark氏は「セミヨン・ビシュコフが最近2年間露出が増えてきたのはロンドンのPR会社と契約したからだ」「ノリントンがロンドンに最近姿を現さないのは1年半前にロンドンのエージェントとの契約を切ったからじゃないか」などと具体例を挙げています。実際のところは判りませんが、個人的には「なるほど、そういうことだったのかー」と納得してしまいました。しまいには「(指揮者の)シナイスキーとスラットキン。聴きに行くならどちらを選ぶか、と云われたら私は前者を選ぶが、世間で有名なのはPRを重要視してるスラットキンの方」と書いてます。彼は別のところでは「宣伝とはなんでもかんでも『これは偉大だ』と言うことだ」とまで言っていますし、なかなか率直な物言いをなさる方ですね(笑)。
まあClark氏はただ放言しっぱなしではなく「プロモーションがないと現代文明でクラシック音楽は埋没してしまう」と、現在の仕組みには一定の理解を示しています。そして「ピアニストのエレーヌ・グリモーはニューヨーク郊外で狼を飼育している」といった類のトリビアが広くプレスに流され、音楽と直接関係のないエピソードがレコードの売上アップの助けになっている現状を紹介しています。確かにこのようなプロモーションは現在の音楽業界では広く大衆にアピールする手段として当たり前になっていますが、音楽以外の話題ばかりになっちゃうとアーティスト本人は複雑な気持ちになるでしょうね。このコラムではそんなアーティストの気持ちを代表して、オペラ歌手のロザリンド・プラウライトのコメントを紹介しています。彼女は80年代にデビュー後人気が過熱し、モデルやテレビ出演など本業以外の仕事を積極的にこなした時期があったそうです。「今思うと、自分以外の誰かになろうと無理していたような気がします。その頃は将来影響が出てくるなんて思わなかったんです」という本人は「プロモーションはスポットライトを浴びて『私って素晴らしい』と思いたい人にはいいけど、そうでない人には身を滅ぼすだけです」と語っています。彼女は一時期の沈滞期を乗り越えて最近コヴェント・ガーデンの「リング」のフリッカ役で地元で再び注目を浴びているそうです。
実は私はこのコラムを読み終えたあと少し考え込んでしまいました。ここのサイトとか1号店とかで取り上げてるアーティストのニュースってホント音楽と関係のない雑魚ネタばっかりなもんで(苦笑)。これからは音楽だけに言及したアーティストの本質に迫るような内容のエントリを増やすことにしますか。「アムランはホロヴィッツを超えたか」とか「ラトルとティーレマン、最後に笑うのはどっち?」とか…。ダメだ…、軟弱なタイトルしか思いつかない_| ̄|○
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Comments
こんにちは。
ほんとですね。訂正いたします。
それにしても単純ミスですね。失礼いたしました。
Posted by: 「坂本くん」 | 2005.02.09 07:26
£1=200円位では?ですので£1,000=20万円弱と思いますが・・・。
Posted by: ばってん | 2005.02.09 03:11