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2005.02.01

【レビュー】巨匠たちの伝説~江口玲 plays at Carnegie Hall

Eguchi-Steinway

1.クライスラー(ラフマニノフ編):愛の喜び
2.同(ラフマニノフ編):愛の悲しみ
3.パデレフスキ:メロディOp.16-2
4.チェルカスキー:悲愴前奏曲
5.ゴドフスキー:ヨハン・シュトラウスの「こうもり」による演奏会用パラフレーズ
6.ショパン(バックハウス編):ピアノ協奏曲第1番より ロマンス
7.ホフマン:”モクセイソウ”より 夜想曲
8.リスト(ホロヴィッツ編):ハンガリー狂詩曲第2番
9.サンサーンス(ゴドフスキー編):白鳥
演奏:江口玲(ピアノ)

 このCDにはいくつもの愉しみがあります。先ずこのアルバムで使用されている19世紀の古いスタインウェイの音色。最初はあまりに現在のそれと異なる響きに驚き戸惑うかもしれませんが、やがて耳が慣れてくると楽器固有の美質を持った響きに気づくことでしょう。そして江口玲の確実な技巧に魅了され、さらには収録曲を作曲、またはピアニスティックにアレンジした巨匠たちのことを偲ぶことができるのです。

 ここに収められた曲は何れも往年のピアノの名手と関係の深い曲ばかりです。「悲愴前奏曲」(Track 4)、「白鳥」(Track 9)は2曲ともチェルカスキーの十八番、そして「愛の喜び」「愛の悲しみ」(クライスラー=ラフマニノフ)はホルヘ・ボレットの見事なレコードを連想させます。そしてホロヴィッツ版の「ハンガリー狂詩曲第2番」は言わずもがなでしょう。さすがにゴドフスキーの「こうもり」パラフレーズから世紀末のサロンを思い起こすのは想像力の足りない私には不可能ですが(笑)。ともかくこのテクニック的にも音楽的にも極度に高いレベルが要求される「こうもり」(この企画に楽譜を提供された夏井様のサイトに僅かながら譜例がありますのでご参考まで)を見事に弾きこなしているのには天晴れです。しかし彼が素晴らしいのはこのピアノの長所を生かそうという演奏を心がけているところで、同曲後半の速い走句ではタッチが現在よりも軽いこのピアノの特徴を生かして軽快な手さばきを聴かせていますし、Track 6のショパン=バックハウスの「ロマンス」では弱音部の響きの良さを積極的に引き出しています。そして細かいパッセージになっても音がバタバタせずきちんと繋がるので旋律が滑らかに聴こえます。江口玲の見事な演奏によりこの曲はオリジナル曲(「ピアノ協奏曲第1番」の第2楽章)以上に静謐なムードに包まれます。まるでショパンの新しい夜想曲が生まれたかのようです。その他のトラックでも江口の巨匠の模倣でない解釈が聴けます。「ハンガリー狂詩曲」でホロヴィッツの追加した音符の表現も確実で見事ですし、「白鳥」ではチェルカスキー以上に旋律を丁寧に美しく歌い上げています。
 今回使用された1887年製のピアノについて、またこの録音の模様についてはCDを制作したタカギクラヴィアのサイトで詳細が掲載されていますが、そこを読むだけでこの数奇の運命をたどったピアノの復元に携わったスタッフの誇りとプライドが伝わってくるようです。これだけ手を込んで作られたCDですので、聴く方も襟を正して聴くべきかもしれません。少なくとも車の中や携帯音楽プレーヤーを使って屋外で聴くと、このピアノの持つ繊細な響きは味わえないと思います。
(タカギクラヴィア, NYS-80619, ASIN:B0000CCNH9)

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