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2005.01.23

【レビュー】シノーポリ&シュターツカペレ・ドレスデンのヴェルディ「レクイエム」

sinopoli-requiem001

演奏:
ダニエラ・デッシー(ソプラノ)
エリザベッタ・フィオリッロ(メゾソプラノ)
ヨハン・ボタ(テノール)
ロベルト・スカンディウッツィ(バス)
ジュゼッペ・シノーポリ指揮ドレスデン国立管
ドレスデン国立歌劇場合唱団

 シノーポリという指揮者は、生前は少なくとも私の周囲では否定的な評価を耳にすることの方が多かったような気がします。彼の指揮する「パルシファル」を聴いてバイロイト詣でから帰ってきた知人なんか「あー行って損した!」と思いっきりけなしていました(苦笑)。それからオペラの指揮中にどこを振ってるのかわかんなくなって迷子になった、なんてスキャンダルも暴露されたりして、プロの指揮者としての能力を疑われたりしたこともありました。
 そんな中、例外的といっていい位「名演奏」として常にネット上で評価の高かったヴェルディの「レクイエム」をこの度ようやく入手しました。私も最後まで聴いて思わず「こりゃすごいわ」とつぶやいてしまいました。

 最初「PLAY」ボタンを押してからなかなか音楽が耳に届きません。そしてボリュームゼロの状態から聞こえるか聞こえないかのギリギリの音量でチェロが聞こえ、やがて再び無音状態になります。この「キリエ」の冒頭からヴァイオリンに伴われて合唱が登場するまでの約40秒間。この音、そして「間」からは手に汗を握るような緊張感が伝わってきます。そしてかすかな音を注意深く耳で追ううちに聴く者は演奏にすっかり引き込まれていくことになるのです。「キリエ」ではこの後悲劇的な合唱パートに続いて独唱の4人が豊かに歌い上げる場面(5'30"過ぎ)になりますが、このオペラ歌手の持つ声の魅力、声の生命力を全面的に押し出すヴェルディの曲の進行が宗教音楽に似合わず劇的に過ぎる気がして、個人的にはこれまで不満でした。そしてこのシノーポリ盤では歌手たちの四重奏は最高の輝きを聴かせています。しかしそれが陰鬱な合唱と重なりブレンドされ、それと共に音楽も「明」と「暗」との間を絶えず行き来していく様を聴くにつれて、「kyrie eleison(主よ、あわれみたまえ)」という歌詞を単にメランコリックな嘆きに帰することなく複雑な感情表現にしていこう、という作曲者の意図を感じ取ることが出来ました。
 続く「怒りの日」ですが映画「バトルロワイヤル」でも使われた有名な冒頭部では大太鼓の連打の強調に驚かされます。これをもし19世紀の音楽評論家ハンスリックが聴いたら「大太鼓協奏曲じゃないか」と言い出すかも知れません。ただシノーポリ盤では冒頭部はあくまで前口上で、音楽はTrack 6の「Rex Tremendae」の部分で最高潮に達します。ここでは独唱者に導かれた合唱による「salva me(私をお救い下さい)」の連呼は鳥肌ものですし、クライマックスでは音の塊がまるで巨大な火の玉になって落ちてくるようです。終盤のTrack 10の「Lacrymosa」での大太鼓の強調は、私にはもの悲しい葬列を連想させるのですが、これは宗教音楽というよりマーラー的な音楽的描写ともいえるかもしれません。CDの2枚目の「奉献唱」以降の音楽については、詩や音楽に込められた喜怒哀楽を包み隠さず表現しようとするシノーポリの感情的な解釈で一貫しています。特に活力ある「サンクトゥス」と楽想の変化が激しい最終曲の「リベラ・メ」が素晴らしいです。
 実は私は来日公演でのマーラーの「交響曲第2番」をテレビで見て以来、結構彼のCDを買い求めていたのですが、消化不良が否めない演奏も少なからず認められた一方で、「ペレアスとメリザンド」(シェーンベルク)、「サロメ」、「蝶々夫人」、「亡き子をしのぶ歌」などの情熱的で鮮烈な録音も遺しています(ラジオで聴いたライブでもいくつかの印象的な演奏が思い起こされますが、これについてはまたの機会ということで)。今回ヴェルディのCDを聴きながら以前の記憶を思い起こし、「指揮者シノーポリはこういう感情の起伏の激しい音楽でこそ、その長所が生きるのかな」と思ったりしました。確かに彼の生み出す音は古くからのファンを喜ばせるようなサウンドではなかったかもしれませんが、その個性的な音響と解釈は貴重な存在あったと確信できます。
 さてこのCDはドレスデン国立管の(いつもながらの)名演もあり素晴らしい出来なのですが、残念な点もあります。それはこのCDが正規のルートでは入手困難なことです。少し遠回りですがその経緯を説明しますと、第2次大戦のドレスデン大空襲の犠牲者を追悼するために1951年にルドルフ・ケンペの発案で、空襲のあった2月13日にこのCDと同じヴェルディの「レクイエム」が演奏され、それ以来この日には毎年ドレスデン国立管による追悼演奏会が開かれています。2001年にシノーポリ指揮で行われたこのライブ演奏のCDは、指揮者の提案で売上を空襲で全壊したドレスデン聖母教会の再建費用として寄付することになりました。それ故かこのCDは聖母教会のウェブサイトで購入できるものの、アマゾンなどの通販サイトや小売店ではまず見かけません。しかもWOODMANN様のサイトを拝見いたしますと、結構オーダーしてから入手するまで時間がかかったりして結構面倒なようです。私は通販サイト「アリアCD」(会員制:年会費要)で入手しましたが、どうやらそちらでも1/22現在入荷は未定のようです。
(WIEDERAUFBAU FRAUENKIRCHE GMBH)
(追記2/9)ガーター亭の亭主様のコメントによりますと、聖母教会のサイトを通じての購入には現在のところ問題はないそうです。

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Comments

こんばんは、いやそちら時間では「こんにちは」ですね(笑)。
このCDもリリースされてからかなり時間が経ってますし、おそらく聖母教会もお客様との応対に慣れてきたのではないかと(笑)。ともあれ無事に届いて良かったですね。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.02.08 at 19:01

2,3年前にタワーレコード(もちろん日本の)で見かけて、高いので手を出さず、その後巡り会わずに今日まで来たのですが、このエントリーを見て、ウェブから注文してみました。そうしたら、今日(2月8日)無事に届きました。
2週間でした。同じ欧州内だと早いのかもしれませんが、トラブルは特にありませんでした(今のところ)。
日本語とフランス語の教会再建寄付を呼びかけるリーフレットが同封されていました。日本人って何で分かったんだろう。。

Posted by: ガーター亭亭主 | 2005.02.08 at 16:54

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