【レビュー】内藤彰&東京ニューシティ管のブルックナー「交響曲第8番」別バージョン
唐突ですが日本のクラシック音楽ファンってブルックナーが大好きですよね。その人気は地元オーストリアと較べても同等か、あるいはそれ以上かもしれません。これがどうしてなのかホントのところは分かりませんが、日本でブルックナーの印象深い名演が数多く行われたこともその理由の一つかもしれません。私は昔テレビでみたN響の定演で「交響曲第8番」を実直なまでに拍子を正確にキッチリ取りながら指揮するギュンター・ヴァントの姿を今でもハッキリと憶えています。N響と「交響曲第8番」といえば、私よりもう少し年配の方はマタチッチの豪快な音造りに度肝を抜かれたでしょうし、年下の方は朝比奈隆のイメージが強いでしょうね。ところで皆さんは「交響曲第8番」のCD、何枚持ってますか?私は今数えてみたらCD、LP合わせて13セットありました(笑)。
さて「交響曲第8番」の第3楽章(アダージョ)の新たなバージョンの存在をHayes様のサイトで知り、これが実際に日本で初演されCD化されていることを斉諧生様のサイトで教えて頂いたわけですが、個人的に初めて目にするオケなので、ちゃんとした演奏をしてくれるのかどうか、正直不安でした。幸いにも店頭の試聴機にこのCDが載ってたので「とりあえずどこがどう普通の演奏と違うのか聴いてみよう」と思ってチラッと聴いて、その素晴らしい出来に驚いた私はCDを持ってレジへ直行しました。
東京ニューシティ管弦楽団は管楽器に名手を揃えているように思われます。強奏時の音の輝きは素晴らしいですし、音程もほとんどミスもなく確実に決めてくれるので和音の連続を聴いていても気持ちいいです。この録音はライブの無修正CD化らしいのですが、ブルックナーの長大な交響曲でこれだけ管楽器の音程が一定しているというのは見事なものです。一方弦楽は特に旋律部で清潔感あふれる演奏をしています。フォルテシモのところでは管楽器群に力負けしてしまってますが、これをとやかく言うのはぜいたくかもしれません。指揮者の内藤彰はブルックナーの演奏解釈の勘所をうまく掴んでいると思います。スケルツォ楽章での内声部の歌わせ方、響かせ方などにそれを特に感じます。ブックレットによると彼はブルックナーの交響曲を指揮するのが2度目ということなのですが本当なのでしょうか。にわかに信じられません。
さて肝心のアダージョ楽章ですが、1887年にできあがった「第1稿」と、それを改訂し1890年に完成した「第2稿」に至るまでの中間形態である、ということです。確かに聴いてみると「第1稿」からのカットや差し替えの結果「第2稿」と同じ状態になった箇所があるかと思うと「第1稿」のまま保存された箇所があったりと、2つの版がミックスされたような印象を受けます。ただこのバージョンの五部形式(「AーB-A-B-A」)の最後の「A」の部分、特に最大のクライマックスへと盛り上がっていく部分でこれまで耳にしたことのないブルックナーの音楽が聴けます。個人的にはハース版でわざわざ採用した所謂「谷間の百合」のような強いインパクトは感じませんでしたが、それでも「初耳」の部分をこうやって素晴らしい演奏で聴けるのは嬉しいことです。
ともあれ未知の団体がこれほど見事にブルックナーを体現した演奏をするというのはどういうことなのでしょうか。ブックレットにあるように「奇蹟」(浅岡弘和氏)なのかもしれません。しかしこれは「ブルックナー大国」(同氏)日本の底力なのかもしれないなあ、と思ったりもします。帯に書いてある「朝比奈、ヴァント以来、最美のブルックナー演奏」(同氏)という大仰な宣伝文句も誇大広告に思えない、世界に出しても恥ずかしくない演奏です。
(DELTA ENTERTAINMENT, DCCA-0003)
(追伸)なおこのバージョンの存在に以前から着目していたブルックナー研究家川崎高伸氏のサイト(Internet Explorer推奨)に、このアダージョの構成などの詳細が載っておりますので、どうぞご覧下さい。
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