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2004.12.08

【レビュー】舘野泉 「風のしるし-左手のためのピアノ作品集-」

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1.バッハ(ブラームス編)/シャコンヌ
2.スクリャービン/左手のための2つの小品 作品9
3.間宮芳生/風のしるし・オッフェルトリウム
4.ブリッジ/3つのインプロヴィゼーション
演奏:舘野泉(ピアノ)

 舘野泉久々の新譜。今回は左手による作品だけを収めたユニークなアルバム。エイベックスからリリースされたがCCCDではなくCD-DAである。

 Track 1のバッハの「シャコンヌ」(ブラームス編曲版)の冒頭部からしばらくは抑制を利かせた表現で落ち着いた雰囲気が続くが、5'30"過ぎから徐々に音楽が高揚していく。譜面に隠れた声部を意識してアルペジオの一つ一つの音をしっかりと鳴らしていて決してスマートではないものの、音楽的に充実していて満足できる。10'00"前後からの最もピアニスティックな重音の連続では、節度を保ちつつも堂々とした風格を感じる。ただ全体の印象としてはブラームス版はブゾーニ編曲版と比較して華やかさに欠けていて「薄味」なので、何度か繰り返し聴いてみて耳を慣らしていく方がこの演奏の良さがより一層伝わるかもしれない。
 控えめな「シャコンヌ」の後のスクリャービン。「夜想曲」(Track 3)では一転してダイナミックな表現を聴かせてくれる。バッハとスクリャービンを聞き比べると、舘野が作曲家や作品の性格に合わせて弾き分けているのが伝わってくる。ここでは弱音部のコントロールされた響きも見事である。
 このアルバム中一番演奏時間の長い、メイン・プログラムといった趣の間宮芳生の新作「風のしるし・オッフェルトリウム」(Track 4-8)の英題は「WInd Wrought」(風紋)とある。激しいつむじ風のような走句で始まるこの曲は、荒涼とした大地のような雰囲気で進行するが、最後はコラールのような和音が神秘的な「ミニ・シャコンヌ」で終わる。舘野の演奏からは時には地面に模様を刻む風のようなパワーを、そしてべつの局面ではかすかに耳に届く風の音のような細やかさを感じた。
 一種近寄りがたい険しさを持つ間宮作品の後は、比較的親しみやすいフランク・ブリッジの「3つのインプロヴィゼーション」(Track 9-11)が続く。1曲目の「夜明けに」のほのかな明るさ、2曲目「夜のお祈り」のシンプルな旋律の清らかさ、そして最後の「酒宴」でははじけるような華やかさ、と性格が異なる3曲が並んでいる。この曲を舘野に紹介したのは彼のご子息だということだが、この曲を知り復帰へのモチベーションを高めていった舘野だけではなく、聴く側の私たちもこの家族の存在には感謝すべきだろう。
 舘野はコンサート中に起こった脳出血と、その後遺症の治療とリハビリのために演奏活動の中断を余儀なくされたのだが、この最新録音を聴いた後、私は彼の病前のCD「フィンランド名曲コレクション」(現役盤:PCCL-532)を聞き直してみた。そしてシベリウスやパルムグレンを弾いていた頃と同じような響き、同じような美しさを彼は左手だけで生み出している、と思った。左手のピアニストになっても「ピアニスト舘野泉」は変わっていないようだ。しばらくは私が好きな「北欧のショパン」パルムグレンの曲を彼の演奏で聴くことは叶わないかもしれないが、その代わりにフリッジの作品のような新しいピアノの世界を知ることが出来るのではないかと考えたりもする。いずれにしても今後の舘野泉の活動に期待したい。
(avex-CLASSICS:AVCL-25028/ASIN:B00067SSX8)
(2005.2.10追記)朝日新聞にインタビューが掲載されています。2/13に吉松隆の作品を初演するそうです。

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Tracked on 2005.01.15 18:15

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