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2004.12.15

【レビュー】シェイナのマーラー:交響曲第4番

Sejna-MAhler4

演奏:マリア・タウベロヴァー(ソプラノ)
カレル・シェイナ指揮チェコ・フィル

 先日「NHK音楽祭」の一環としてチェコ・フィルが来日し、ズデニェク・マーツァル指揮の「第九」のライブ映像はBS2でオンエアされましたが、私はこれを見ながら1960年代に録音されたハンス・シュミット=イッセルシュテット&ウィーン・フィルの演奏(英デッカ)を思い起こしていました。オケの響きのバランスに昔のオーケストラ演奏を思わせる、一種の懐かしさを感じたのです。後で考えてみると今回のチェコ・フィルは管楽器(特にホルンとファゴット)の声部がより強調されていたように思います。テレビ画面からは管楽器に「足」(追加奏者)を加えていることが確認できましたが、これがオケのバランスにどう影響したのかは分かりません、しかし全体として内声部が膨らんで聞こえて来たのは確かです。特に「第九」の第2楽章のホルンの活躍には目覚ましいものがありました。チェコ・フィルは最近もビエロフラーヴェクやマッケラスが指揮したライブ演奏をラジオで耳にしていたりしましたが、今回のマーツァルのような印象は受けなかったので、これはきっと彼の個性なのでしょう。
 そんなマーツァルですが、ズィコフさんのサイトによると、尊敬するマーラー指揮者として彼が名前を挙げたのは同郷の先輩カレル・シェイナだといいます(「交響曲第5番」の項参照)。このシェイナのマーラー録音で既出のものは「伝説的名演」と謳われつつも入手困難だった「交響曲第4番」のみなのですが、先日ようやくこの演奏のCDが日本で発売されました。私は以前聴いた「我が祖国」のCDでシェイナに対して好印象を持っていたので期待はしていましたが、この演奏はその想像以上の出来でした。

 マーラーの交響曲第4番といえばポルタメントの指示が「ここでしなさい(その代わり他の場所ではやってはいけません)」みたいな感じで一杯書いてあったり、弦楽器なのに「’」(ダッシュ)を書いてブレスの指示をしたりと、厳格だったと伝えられる指揮者マーラーが透けて見えるような楽譜なのですが、これらの指示を忠実に守ろうという意識が強すぎてオーバーアクション気味の演奏も多々見受けられます。このシェイナ盤の場合、それらの指示には従いながらも表現がすごくスムーズかつ自然で、わざとらしさやしつこさを全く感じないのです。テンポの急激な変化、急停止、急発進も慎重に避けられ、流麗に音楽が進行していくので音楽自体に一種の気品を感じます。そしてその「品の良さ」がマーラーの旋律美とあいまって、独特の優美な歌の世界を作り出しています。その特徴は甘美な第3楽章で顕著です。それから旋律以外のパートもしっかりと手抜かりなく弾き込まれていて、音楽全体に生命力を与えています。弦楽もヴァイオリンは第3楽章冒頭部の静寂の表現が素晴らしかったですし、低弦部も質感の高さを感じました。またホルン、ファゴットが朗々と響いているのを聴くと、前述のマーツァルの解釈もこの演奏を意識しているのかな、と考えてみたくなります。
 そして最終楽章がこれまた素晴らしい。見事な天上の幸福感の表現に大きく貢献しているのは独唱のマリア・タウベロヴァーです。声には輝きと艶と共に柔らかさがあり、発声技術に優れたものを感じさせます。もう少し分かり易く云うと「エエ声」です(笑)。それからドイツ語が話せない私でも、彼女のドイツ語の発音が明瞭でしかも美しいことは感じ取れました。ここでのタウべロヴァーはまさに語るように歌い、歌うように語っています。彼女の名前は西欧のクラシック音楽ビジネス界で殆ど耳にすることはなかったですし、私もこのCDで初めてその存在を知ったのですが、実は彼女は傑出した歌手だったのではないか、と思った私はググってみたり図書館で音楽事典を当たったりして彼女のことを少しだけですが調べてみました。その結果についてはまた改めてトピックを立てて触れてみたいと思います(というか今回のレビュー、我ながら長すぎ)。
 ともあれこれまで私が聴いた「交響曲第4番」の演奏の中でも最も天国的に感じられたこの演奏は、いくつかのマスターテープに由来するノイズや稚拙なテープ編集の跡などの音質上の「キズ」に我慢できれば何度聴いても楽しめます。価格も安いし(1260円:税込)、マーラーを好んで聴く方は是非ご購入されてはいかがでしょうか。
(コロムビア・ミュージック・エンタテイメント,COCQ-83865,ASIN:B000657LJW)

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