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2004.11.20

【レビュー】アンジェラ・ヒューイットのショパン 夜想曲集&即興曲集

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演奏:アンジェラ・ヒューイット(ピアノ)
(曲目の詳細についてはHMVのサイトでご覧下さい)

 静かだ。とても静かだ。なんという静けさ。そして繊細な音の数々。丁寧で控えめだが均質に整えられた左手の伴奏。滑るように流れる旋律。一音一音に配慮が行き届いていて、乱れを微塵も感じさせない磨き抜かれた音に耳を奪われる。ピアノの音と響きはこれほどまで美しくすることができるのか、と思う位の美の極致である。

 それにしても見事な演奏である。弱音部が多いこのアルバム全体を最後まで飽きさせることなく聴かせてしまうヒューイットの技術は素晴らしい。フォルテやフォルテシモの箇所で強く激しい打鍵があっても、決して鋭い響きを感じさせることはなく全てが滑らかに音楽が進行していく。強弱のコントロールも統制が取れていて、曲の持つ抑揚を見事に表現している。そして音のコントロールも良い上に旋律のフレージングも見事なので、息の長いパッセージもまさに「歌う」ように聞こえてくる。決してテンポの激しい揺れなど情に訴えることがないのに、冷静で考え抜かれた知的なアプローチによってショパンの「歌」が現出される様は見事としかいいようがない。それにしても弱音部、そしてそれより更に小さい音の美しさはこの上なく素晴らしい。時折表れるヴァリアントでの転がる玉のような響きは、なめらかなタッチで定評のあった古の巨匠エミール・フォン・ザウアーに例える批評家も出るかもしれない。
 この演奏解釈は夜想曲だけでなく、余白に収録された即興曲集でも同様である。人口に膾灸した作品である「幻想即興曲」の華麗な走句の数々もヒューイットにかかるとまばゆく輝くダイヤモンドダストのようだ。全編を聴き終えた後にブックレットに目をやると、表紙には木陰で横たわる裸婦の絵があった。19世紀のフランスの画家エンネルによるというその絵の陰影を帯びた神秘的なムードはアルバムの曲調とマッチしていると思う。いつもながらハイペリオンのジャケットデザインのセンスには関心させられる。ライナーノートはヒューイット自身が担当しているが、彼女のショパン演奏に対する考えが、ショパンの自作自演を聴いたリストやタルベルクの感想(これがまた興味深い内容なのだが)を交えながら述べられている。また収録曲の個々の解釈のポイントなども書かれていて、これを読むと音大生などには良い参考資料になるかも知れない。ともあれいつまでも心に残る印象的な演奏だった。最近ハフのラフマニノフヒラリー・ハーンのエルガーに続いてこのショパンと、立て続けにこれから宝物になりそうな名演を聴くことができて素直に嬉しい。もしかしたら巨匠の時代がまた始まったのかもしれない、と大仰なことを言ってしまいたいくらいだ。

(Hyperion:
SACDA67271/2,ASIN:B00067FPBG (SACD&CD-DA Hybrid),
CDA67271/2,ASIN:B000667YOI (CD-DA))

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