【レビュー】サー・コリン・デイヴィス&ヒラリー・ハーンのイギリス音楽
1.エルガー/ヴァイオリン協奏曲ロ短調作品61
2.ヴォーン=ウィリアムス/揚げひばり
演奏:
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
サー・コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団
「このアルバムを私の両親に捧げます」とコメントを寄せているブックレットのヒラリー・ハーンの写真の数々を見ると惚れ惚れする。「まるでお人形さんみたい」なんて七五三の時のおばあちゃんみたいな事を言いたくなるほどだ。これらは1人の女性としてのヒラリー・ハーンの魅力を垣間見せてくれているのだが、ヴァイオリニストとしての彼女の魅力はそれに勝るとも劣らず、この演奏では遺憾なくその実力を発揮していると思う。
彼女のまばゆい輝きと艶を持つ高音、弱音であってもほのかに暖かみを感じる音色、そして小気味よさを感じさせる弓捌きは、何ともいえない生命力をを感じさせ、聴いていて清々しい。以前ラジオで聴いたときには「線が細いかなあ」と物足りなさを感じたこともあったが、ここでは魅力に乏しいと感じることはなかった。これは録音条件によるものかもしれないが、ダイナミックス、間の取り方などの表現力の幅が以前よりも広がったような印象も与えるので、そのあたりも作用してるのだろう。例えば「ヴァイオリン協奏曲」の第1楽章の9'20"過ぎからのソロがオケをリードするかのような牽引力には引き込まれるし、第2楽章や第3楽章の後半部といった、エルガーらしい静謐さ、そしてミステリアスな部分を秘めた箇所では、忍ぶように控えめでデリケートに一つ一つの音を丁寧に処理していて、これらのアプローチが音楽を複雑で意味深いものにしている。「揚げひばり」でのエルガーとは異なった雰囲気の(田園的というべきか)静寂の表現も良い。
そしてコリン・デイヴィス指揮のロンドン響は、「ヴァイオリン協奏曲」のソロパートが現れるまでの3分余りでに荘厳かつ優美な管弦楽を聴かせ、見事にエルガーの世界を創り出している。ソロが加わってからも完全に一つの音楽をつくっていて、劇的表現力にも優れている。
全体的に繊細かつ雄大なイギリス音楽の長所を伝える名演奏であり、ソロ、管弦楽が一体になった丁寧な音楽造りが素晴らしい。最近ではレコード会社の録音よりも放送局のアーカイブから発掘されたライブ録音の方が重用されているような気がするが、このようなすぐれたレコードが出てくると正規録音も悪くないな、と思えてくる。
追伸:このCDは風来坊様にご教示頂きました。ありがとうございました。
(Deutsche Gramophone:
00289 474 8732;ASIN:B0002HN14I(SACD&CD-DA Hybrid), UCCG-1196;ASIN:B0002CHODM(CD-DA))
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Comments
コメントありがとうございます。
前途有望なヒラリー・ハーンですが、業界の荒波に埋もれることなく末永く活躍することを祈らずにはいられません。
風来坊さんも、面白いCDをこれからもどんどん教えて下さいね。
Posted by: 「坂本くん」 | 2004.11.20 08:51
リンクありがとうございます。ハーンにはこのまま美と知性と技術に磨きをかけていって欲しいですね。
Posted by: 風来坊 | 2004.11.19 22:55