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2004.11.14

【レビュー】ハフ&リットン指揮ダラス響のラフマニノフ:ピアノ協奏曲全集

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1.ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第1番嬰ヘ短調作品1
2.同/ピアノ協奏曲第4番ト短調作品40
3.同/パガニーニの主題による変奏曲作品43
4.同/ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18
5.同/ピアノ協奏曲第3番ニ短調作品30

演奏:スティーヴン・ハフ(ピアノ)
アンドルー・リットン指揮ダラス交響楽団

 これまで聴いたことのないようなラフマニノフ演奏である。

 1枚目冒頭の堂々とした開始はまさにいつも聴くようなラフマニノフなのだが、それに続く弦の旋律を聴いて「エッ」と虚を突かれた。何というポルタメント!この息の長い旋律を見事に曲線的かつ流麗に仕上げている様に驚いた。この部分を始め管弦楽は細部に渡り手抜きすることなく丁寧に弾き込んでいる。そんな管弦楽をバックにソリストのハフは楽譜を意識しつつも推進力にあふれたキレのある演奏を繰り広げている。「第2番」や「第3番」の冒頭などは記載通りのテンポにこだわる余り、つれなく感じられる程であるが、ハフのダイナミックでありつつ端正な演奏を聴くうちに彼のやり方も悪くないな、と思えてくる。特に「第3番」の第1楽章のカデンツァ部からの箇所はその鮮やかさに魅了される。
 このアプローチを裏付けるような内容のハフのコメントがブックレット内にある。それによると彼のこの協奏曲の初体験は作曲者自身のピアノ演奏によるLPで、その演奏に長年慣れ親しんだ後に他の演奏を聴き、そのルバート、テンポ変化などのスタイルの余りの違いに「戸惑った」という。そのような作曲者の解釈との乖離(ハフによると「すしのシャリに玄米を使うようなもの」らしい)を解消するべく、ラフマニノフの楽譜や作曲当時のピアニストの解釈などを参考にして作品の本質に迫ろうとした、といったようなことが書かれている。ハフの「洗い直し」の意思はこのライブ演奏を通し非常に強く、ところどころ耳慣れない部分もあるが、管弦楽も含めてラフマニノフのもつ感傷的な部分に甘えることなく見事な造形美を見せている。といいつつも「パガニーニ変奏曲」の例の泣きどころ「アンダンテ・カンタービレ」(Disc1:Track26)でのヴァイオリンとピアノの歌いあげ方は充分感情的だが。また全体を通してこれほどアンサンブルが統制が取れている、と感じるラフマニノフの協奏曲の演奏は聴いたことがない。「第3番」の最終楽章の10'50"あたりから音楽が激しく動くところでのピアノとオケの一体感は見事である。テンポが激しく揺れているにも関わらず一糸乱れない様は聴いていて爽快である。
 アルゲリッチのような「取り乱した」演奏でないと受け付けない、という人でなければこの隅々まで磨きのかかったラフマニノフに満足できるだろう。まああのアルゲリッチの「第3番」での尋常でない取り乱しようはものすごく感情に直接訴えるものがあるので、それに心奪われる方がいても責めることはできないし、私もその中の1人なのだが。それでもこの2枚組の演奏の完成度の高さは賞賛されるべきである。
 最後に禁煙に対する意識が高いEUの製品にもかかわらず、くわえタバコの作曲者の写真をジャケットに持ってきたハイペリオン社の勇気を称えたい(ビートルズの「アビイ・ロード」の件もあるしね)。

(追伸)今回私が購入したのはSACD&CD-DAのハイブリッドディスクですが、試聴にはCDプレーヤーを用いたので、聴いたのはCD面です。
(追伸その2)「はなかんむり」経由でハフによるレコーディング秘話(英語)が出てることを知りました。ピアノのコンディションに悩まされたとか、録り直しセッションがオケの組合との協定を守らないといけないせいであまり時間が取れなかったとか、ハフの完璧を目指す姿勢がコメントの端々から見て取れます。そして一仕事終えたあとはワインを友にテキサス州産ステーキに舌鼓を打って癒されたそうです(笑)。

(Hyperion:CDA67501/2;ASIN:B0002VYF4Y(CD-DA), SACDA67501/2;ASIN:B00030NU9U(SACD&CD-DA hybrid)

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