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2004.11.12

【レビュー】チェルカスキーのライブCD

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1.チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番変ロ短調作品23
2.ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」
3.チェルカスキー/悲愴前奏曲
4.リムスキー=コルサコフ(ラフマニノフ編)/熊蜂の飛行

演奏:シューラ・チェルカスキー(ピアノ)
サー・ゲオルク・ショルティ指揮ロンドン交響楽団(1)


 生前のチェルカスキーの演奏をラジオで聴くときはいつもハラハラさせられた。楽譜からあまりにも逸脱しているかと思えば、「そこまで楽譜通りに弾いてしまわなくても」という部分に出くわす。又ことのほかテンポを揺らして歌いあげるかと思えば、普通のピアニストなら見過ごすようなパッセージを強調したりする。そんな塩梅で彼の演奏は常に変化に富んでいるので、彼は次はどういう手を打つのか、全く先の読めないピアニストだった。そんな波瀾万丈のパフォーマンスには戸惑うこともしばしばだったが、最後には何だか魅了されてしまう。そんな周囲を振り回し巻き込みつつも気になってしまう悪女のような存在だった。チェルカスキーよりも正確に弾きこなすピアニストは古今東西問わず世の中にゴマンといるだろうし、彼よりも大きい音を出すピアニストもたくさんいるだろう。だが彼には唯一無二の個性があった。その独特の語り口によって作品は蘇生し、呼吸を始め、まばゆいばかりの生命の輝きを得るのだ。

 ただチェルカスキーの場合、「これを聴けば充分」と胸を張ってオススメできるCDがないので困ってしまう。英DECCAからかつて出ていたライブ録音集で私が個人的に「イイ!」と思っているショパンの「ピアノソナタ第3番」とかリストの「ハンガリー狂詩曲第12番」とか、メンデルスゾーンの「前奏曲ホ短調」とかは悉く廃盤である。ラジオを通して聴いた来日公演で今でも耳に残っているフランクの「前奏曲、コラールとフーガ」とかシューマンの「謝肉祭」とか、シューベルトの演奏時間の長い方の「ソナタイ長調」とか、そういうのをどこかがCDにして出してくれたらなどと勝手なことを考えたりもする。
 さてこの度BBC Legendsから出たこのライブ音源だが、ここでもチェルカスキーは自由自在の演奏を展開している。「自由自在」といっても無手勝流というよりは、考え抜かれた楽譜への洞察がベースにあって、その上で聴き手に自由に振る舞っているように感じさせる技術がある、といった方が合ってるかもしれない。そんな彼らしさが最も発揮されている箇所は静謐で神秘的なムードの主部と、彼独特の柔らかなタッチで軽快に流していく中間部との対比が素晴らしい「ピアノ協奏曲第1番」の第2楽章(Track 2)と、独特のテンポ感と間の取り方で幻惑させる「卵の殻をつけた雛の踊り」(Track 12)だろうか。それ以外にも感情豊かな第1楽章のカデンツァ部(特に16'45"過ぎからのアルペジオの響かせ方が耳に心地よい)、そしてカデンツァから管弦楽とのアンサンブルに入っていく辺りの語り口も絶妙で素晴らしいし、「サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ」(Track 13)での右手と左手の弾き分けは、彼の入念な準備を感じさせる。といった風に彼ならではのアプローチが随所で認められる。「ババ・ヤガ」から「キエフの大門」にかけての技巧も安定していて、調子のいい時のチェルカスキーが楽しめる。「ピアノ協奏曲第1番」の最後の最後、Track 3の5'30"過ぎの指揮者ショルティとの主導権争いとも思えるテンポの著しいズレも彼らしい(笑)。
 このCDを聴いた後、「やっぱりチェルカスキーは素晴らしいや」と彼の美技に魅了されつつも、やはり来日公演ももう一度聴いてみたい、と思わずにはいられないのだ。チャイコフスキーの協奏曲といえば「ピアノ協奏曲第2番」の、あのスヴェトラーノフとの1993年の名演も忘れがたい。あれほどチェルカスキーがオケ(そのときはNHK交響楽団)と一体化した演奏はないのではないか。

(BBC Legends; BBCL4160-2; ASIN:B000679MGK)

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