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2004.10.12

【レビュー】ペレーニ&シフのベートーヴェン/チェロソナタ全集

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(曲目)
1.ベートーヴェン/チェロソナタ第1番ヘ長調Op.5-1
2.同/「ユダ・マカベウス」の主題による12の変奏曲WoO.45
3.同/チェロソナタ第2番ト短調Op.5-2
4.同/ソナタヘ長調Op.17(編曲)
5.同/モーツァルトの「魔笛」の主題による12の変奏曲Op.66
6.同/チェロソナタ第3番イ長調Op.69
7.同/モーツァルトの「魔笛」の主題による7つの変奏曲WoO.46
8.同/チェロソナタ第4番ハ長調Op.102-1
9.同/同第5番ニ長調Op.102-2

演奏:ミクローシュ・ペレーニ(チェロ)アンドラーシュ・シフ(ピアノ)

 これは奇跡ではないか。
 まずマンフレッド・アイヒャー率いるECMレーベルから、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集がリリースされる、ということが尋常ではない。そしてその全集を演奏するのがペレーニとアンドラーシュ・シフという傑出したハンガリー人演奏家2人によることも。勿論シフがECMの契約アーティストだということも知ってるし、彼がペレーニと共演歴の長いことも知ってる。だがクラシック音楽のCDリリースに対してレコード会社が臆病な昨今、ここまで何のひねりもなく王道を行く曲目のCDを出すことは今時かえって新鮮である。そして何よりも過去の名盤と対等に渡り合う演奏が「名盤」が生まれにくい(と勝手に私が思いこんでいる)21世紀に生まれたことが奇跡である。 

 シフがシューベルトを弾くときに私が感じた「繊細さ」はこのCDでも感じられる。ベートーヴェンはモーツァルトと比較して「暴力的」な作曲家というイメージを持っているが、ここで聴かれる演奏はどの音符に対しても一定の配慮と意図が込められたデリケートなものである。そんな特徴は若きベートーヴェンの早熟の天才ぶりを示すときによく言及される「ソナタ第1番」の序奏でよく表れている。この部分をこれほどまで神秘的なムードで表現した演奏はこれまでなかった。短い序奏だがまさに「息をのむ美しさ」である。
 そしてペレーニはいつも通りのペレーニである。以前から彼のチェロはその音を聴くだけで充足感を味わうことのできる希有な存在であったが、このCDでもそれは変わらない。2枚目の「ソナタ第3番」を例に挙げると、そこでの決して声高ではないものの清潔で伸びやかな歌が素晴らしい。トラック2の1'30"からの上昇音型の整った美しさは特筆ものだ。高音で力む演奏が多い中、肩の力が抜けて朗らかに響くのも技量の確かさを示している。
 2人は個々の能力だけでなく、デュオのアンサンブルとしても素晴らしい。CD全体を通してシフはペレーニとのコンビネーションにも配慮し、音量のコントロールなどにも気配りを感じる(特に音の少ない部分)。「ソナタ第4番」の冒頭ではもはや弦楽器と鍵盤楽器の区別も感じられない位完全に2人が一体化、同一化し「一つの音楽」を表現している。また2枚目に収録の2曲のモーツァルトの主題による変奏曲では息のあったところを見せ、目覚ましい躍動感で聴かせる。
 ブックレットの巻頭にコメントを寄せたハンガリーの作家エステルハージ・ペーテル氏(不勉強な私にとって初耳だったがググると欧州では高名な方のようだ。そして「あの」エステルハージ家の末裔である)は彼らのベートーヴェンを実演で聴くうちに持病の背中の痛みが引いたそうである。そんな意味でも奇跡的な演奏(笑)だが、私も飛行機の故障やら天候不良やらで予定していたハワイ旅行が叶わず遅い夏休みを取り損なった心の痛みを忘れることができた。購入前に危惧していた録音も古典音楽にふさわしいリアルで自然なもので満足できる。

(ECM 1819-20/472 4012; ASIN:B0002VOX6O)

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