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2004.10.02

【レビュー】ミルシテインとクルカのヴァイオリンを聴く

 ヴァイオリン曲を聴く、ヴァイオリニストを聴く、という行為は私にとって「ヴァイオリンの音色を楽しむ」ということと同じです。ヴァイオリンのいい音色が聴ければそれだけで満足、それだけで嬉しい。もうCDを掛けてるだけでご飯3杯はいける。まあ実際にステレオの前にチンと座ってクライスラー聴きながらごはんをパク付いているわけではないのですが(笑)、いい音を出すヴァイオリニストのCDを聴くとそんなことをしてしまう位の勢いの幸福感が押し寄せるということが言いたかっただけで。今日は最近そんないい音を聞かせてくれたCDを2タイトル。

milstein.jpeg

 
●BBC Legends「ミルシテイン」
1.ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲ニ長調
2.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番から前奏曲
3.パガニーニ/24のカプリースから 第5番、第11番
4.ファリャ/スペイン民謡組曲から ホタ、アストゥリアーナ
5.ノヴァーチェク/無窮動
6.(ボーナス・トラック) ミルシテイン・インタヴュー「音楽について語る」

演奏:ナタン・ミルシテイン(ヴァイオリン)サー・エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィル(1)アーネスト・ラッシュ(ピアノ)(4,5)

 全編モノラル。ときどきBBC Legendsからはひどい録音のものも出るので購入前に心配していましたがミルシテインのヴァイオリンの音の張りと艶は完全とはいかないまでも充分に伝わってくるので、心地よく聴くことができました。特に高音部の音の輝きは素晴らしいです。「ヴァイオリン協奏曲」第1楽章では若干ミスも出てきますが、ミルシテインの存在感溢れる音色を聴くとそれも些細なことに思えてきます。カデンツァはクライスラーでもヨアヒムのでもないミルシテインのオリジナルのものですが、このカデンツァもベートーヴェンの音楽との整合性を保ちつつもミルシテインの妙技も堪能できる良くできたもので、特に20'43"過ぎからのクライマックスは圧巻です。第2楽章ではソロは節度を保ちつつも自由に歌い、聴くものを何のためらいもなく音楽に没入させてくれます。フィナーレも短調の中間部が特に表現力豊かで聴かせます。オケとソロとの連携も良いです。ボールトがお好きな方は最後のカデンツァの直後の低弦の分厚い響きに酔いしれて下さい(笑)。
 トラック2以降は全てボーナストラックのようなものなのですが、彼の確実な技巧と表現力はここでも素晴らしいです。トラック5で鳥肌が立ったあとはトラック6の「ホタ」でほっこりできます(笑)。
 最後のインタビューは80代後半になり悠々自適のミルシテインが自由に音楽について語っているのですが、私が耳コピできた範囲で抜き出してみると、
 
 「ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の音型はピアノ的な発想から来ている。ソロの出だしからしてヴァイオリン曲としては他の作曲家では出てこないような音型なので弾きにくい。私はあのパッセージをちゃんと音程を合わせて弾いてるのを聴いたことがない(笑)」
 「作曲家は音楽は好きだからゆっくり演奏したがる。グラズノフ自身もそうだった。彼の協奏曲は2,3回録音した。どれがいいかはそれぞれ条件が違うし分からないけど」
 「バッハはヴァイオリンの名手だったと思う。でないとあんな素晴らしい曲は書けない。彼はパガニーニより巧かったんじゃないだろうか。パガニーニはトリックを得意技にしていたが彼はそれを使わなかった」

(BBC Legends, BBCL4151: ASIN:B0002NRRQA)

kulka2.jpeg.jpg

●「クルカの芸術」
CD1
1.エルンスト/「夏の名残のばら」による協奏的変奏曲
2.バツェヴィチ/ポーランド奇想曲
3.アンジュジェヨフスキ/ブルレスカ
4.チャイコフスキー/瞑想Op41-2
5.同/ワルツ=スケルツォハ長調
6.ハチャトゥリアン/バレエ組曲「ガイーヌ」から アダージョとガイーヌの踊り
7.パガニーニ/序奏と「水車屋の娘」の「わが心うつろになりて」による変奏曲
8.ヴィエニャフスキ/ポロネーズニ長調Op4
9.同/奇想曲変イ長調Op10-7「カデンツァ」
10.同/スケルツォ=タランテラト短調Op16
11.シマノフスキ/パガニーニの3つの奇想曲Op40
CD2
12.ブラームス/ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op77
13.ラロ/スペイン交響曲ニ短調Op21
CD3
14.メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op64
15.ヤニェヴィツ/ヴァイオリン協奏曲第5番ホ短調
16.ドヴォルザーク/ヴァイオリン協奏曲イ短調Op53

演奏:コンスタンティ・アンジュジェイ・クルカ(ヴァイオリン)
エルヴィラ・ホディナロヴァ(5)ヴァルデマル・マリツキ(3,4)イェジー・マルフヴィニスキ(7,8,10,11)(ピアノ)
ヤチェク・カスプシク(12)カジミェシュ・コルト(13)タデウシュ・ストルガワ(14)指揮ポーランド放送響(12,13,14)イェジー・サルヴァロフスキ(15)パヴェウ・プシトツキ(16)指揮ポーランド放送管(15.16)

 ポーランド出身のクルカは一昨年N響定期のため来日し、ラジオで聴いて良い印象を持ったのでCDがあったらなと思ってたのですが、この3枚組のアンソロジーの存在を「アリアCD」で知り「クルカキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!」て感じで勢いで購入(笑)。で聴いてみるとクルカが技術と表現力とを高いレベルで融合させている名手であることをどの曲からも感じさせる素晴らしい内容でした。彼の名技を知るにはCD1の小品集(隙がない!特にパガニーニには圧倒されます)でもいいのですが、CD2のトラック3、ブラームスの協奏曲の第3楽章冒頭の重音の連続をこれほど明瞭に、力強く弾ききってしまうとは。これは他ではなかなか聴けるものではないと思います。CD3の所謂「メン・コン」もその凛としたヴァイオリンの音が曲全体を引き締まったものにしています。CD2の「スペイン交響曲」でも力強さで一気に聴かせるだけの勢いをヴァイオリンから感じます。ただこの演奏は歯切れ良く、しかもずっしりと鳴らしてくれるコルト指揮の管弦楽の響きに快哉をあげる人も多いかも。最も新しい録音(1998年)のドヴォルザークでもクルカはこの作品特有の哀感も見事に表しています。この曲はそんなに楽想が変わるわけでないので演奏によっては聴いていてダレてしまうこともあるのですが、クルカがぐいぐいと聴き手を引き込むように力演しているので、最後まで緊張感をもって聴けました。ヤニェヴィツの協奏曲はあまり演奏される機会のない曲で私も初耳でしたが、ヴァイオリンをのびのび歌わせる親しみやすい佳曲でした。フィナーレが少しメロディーがロマの音楽っぽくて面白かったです。
 クルカのヴァイオリンの魅力をたっぷりと味わえるこのCD、ヴァイオリンをこれから聴いてみたいと思っているような初心者にもおすすめなのですが、このCDを店頭で置いているのを私は見たことがありません。入手は難しそうで残念。
( POLSKIE RADIO, PRCD081-3)

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Comments

こんばんは、そしてはじめまして。
レビューに限らず文章の書き方については試行錯誤の毎日です。ある程度文体を統一させた方がいいとは思うのですが、「です」「ます」を付けた方がいいのか断定口調の方が良いのかは今でも迷います。
ミルシテインのインタビューですが、彼は英語で話しているのですが、ネイティヴではないので聞き苦しい部分も多いです。インナーノートに彼の発言が書き出してあったら有り難かったのですが。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.01.31 21:46

はじめまして、ミルシテインで検索しててたどり着きました。レビュー、とっても参考になりました。気取ってない感じで、読んでてとても面白かったです。
確かにBBCはひどいものが結構ありますもんね。ミルシテイン、早速購入しようと思います。インタビューも是非聞いてみたいです。
ぼくもヴァイオリンが大好きで、ご飯三杯いけるどころか実際に始めてしまいました。また遊びにきます。

Posted by: まさあき | 2005.01.31 01:15

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