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2004.08.11

【レビュー】シェイナ&チェコ・フィルの「わが祖国」

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スメタナ/連作交響詩「わが祖国」
演奏:カレル・シェイナ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

 チェコのオーケストラの特徴を言葉で表すとどんな感じになるのでしょう。小生の独断を許して頂けるなら、丁寧かつ克明に一音一音をはっきりと表現する弦楽合奏に合わせて、黄金色に輝くようなフルートやトランペット、そして独特の響きを持つその他の管楽器が自己主張をしながら彩りを添える、といった感じでしょうか。もっと一言でいうと「強靱かつ精密」という感じ。「精密」(「緻密」でもいいか)と強調する理由は、一度生でプラハ交響楽団を聴いた時にドヴォルザークの弦(特にチェロ・パート)に特有の細かいパッセージを明瞭かつ力強く弾ききってしまう力量に目を見張ったからなのですが。最近NHK-FMでもチェコの管弦楽団のライブ放送をけっこう取り上げてくれた(NHKにチェコ好きなスタッフがいるのかな?)ので、私も存分に楽しんでおりました。
 さてそんなイメージのオケの代表格といえるチェコ・フィルですが、以前から名録音として知られていたシェイナ指揮による「わが祖国」が日本でもオリジナルジャケットで再発売されたので聴いてみましたが、噂に違わぬ名演奏ですよこれは。

 1950年収録のモノラルの古い録音ですが、先程述べたようなチェコのオケの特徴は充分伝わってきます。というよりも、チェコの管弦楽の響きの基本は恐らく第2次大戦後からそんなに変わっていないのかもしれません。それに加えてここでのチェコ・フィルは表現力の振幅が大きくて劇的表現にも優れていて素晴らしいです。また旋律以外の伴奏パートの音一つ一つにさえ力が篭もっていて、それが全体の力強いイメージに寄与しています。有名な「モルダウ」のあの旋律はシェイナ盤では一音づつ力を込め、確実に演奏しているのでスムーズ感はそんなにありませんが、聴いていると歌心をすごく感じます。それに続く「シャルカ」はこのCD一番の聴き物かもしれません。冒頭の「肉を切り骨を断つ」が如くうなりを上げる生々しいヴァイオリンの表現と、それ以降の木管の旋律の朗らかさとの対比が良いですし、終結部の全奏者が一体となった音の律動には心が動かされます。トロンボーンのソロも英雄的な力強さに溢れています。「ボヘミアの森と草原」の冒頭でも弦楽合奏が何かうねっているような一体感が感じられてアンサンブルの素晴らしさを見せてくれます。「ターボル」と「ブラニーク」での管楽器の響きには圧倒されてしまいましたし、後半から大団円に向かう流れも楽しさ、活気と躍動感が一杯で、聴いている方も幸せな気分になります。
 全体的に力強いオケの表現力に圧倒される演奏なのですが、ズィコフさんが仰るように見栄やハッタリに頼らずに真摯な音の表現の追求した結果であるという点は強調したいと思います。
 ところで先程チェコのオケの特徴はシェイナ時代と現在とで基本的なところでは変わりがないのでは、と述べましたが、このシェイナ盤での「モルダウ」の中間部、農民たちの踊りの場面でのヴァイオリンの独特のアクセントというか表現は最早コンサートホールで聴くことは不可能でしょう。このように「失われたもの」と「今でも残るもの」を思いめぐらせながら私はこのCDを聴いています。
(コロムビアミュージックエンタテインメント;COCQ-83806;ASIN:B0002ADGJA)

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