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2004.07.15

楽譜の編纂・校訂者にも著作権が認められる

ソース:英語)

 この度イギリスで注目すべき判決が出ました。音楽学者Lionel Sawkins氏によって演奏可能な状態に編纂されたMichel-Richard de Lalande(1657-1726:仏)の作品の楽譜は古楽アンサンブルのエクス・カテドラによって積極的に演奏され、その結果de Lalandeの曲が英国の夏の音楽祭「プロムズ」で紹介され、果てにはイギリスの独立系レコード会社の雄ハイペリオンからCDが発売されるまでになりました。そんな中Sawkins氏が自ら編纂・校訂した楽譜に対する著作権を主張し、レコード会社ハイペリオンに著作権料を支払えと訴えました。彼は「CD中の作品の編纂作業には1曲あたり300時間かかった。管弦楽曲に欠けているヴィオラのパートについては作曲もした」とその権利を主張しました。その一方レコード会社は「de Lalandeの曲は既にパブリック・ドメインで、彼の編纂した楽譜を使用したことに対しては使用料を払うが、彼には著作権は存在しない」と反論。で判決は原告の音楽学者の勝訴でハイペリオン側に500,000ポンド(日本円で約1億127万円)の支払いが命じられました。

 古楽の場合、現存する譜面のまま演奏することは難しく、足りない音符を補ったり、失われたパートを復元したりする作業を経て演奏可能な楽譜を作ることが一般的です。この作業は以前から行われていたことで、実際ハイペリオン側も「当社の1500タイトルのうち1枚あたりほぼ1曲の割合で今回のケースと類似の編纂・校訂を経た楽譜が使われている。バッハの楽譜も自筆譜のままでは演奏できる状態じゃないよ」と述べていたといいますが、結局裁判官は著作権の及ぶ範囲を更に広げる判断をしたことになります。
 この判決が確定したかどうかはソースからは不明ですが、楽譜の校訂者に対して著作権が認められたことの意味は大きいと思います。もしこの判決が確定すると、例えばブルックナーの作品の校訂者として有名なレオポルド・ノヴァーク氏にも著作権が生じ、その権利は死後数十年は保全されることになります。これは大事ですよ。だってこれまでは「パブリック・ドメイン」ということで著作権料が発生せずブルックナーを演奏していたオーケストラがノヴァーク版を演奏する度に著作権料を支払わないといけないわけですから。
 そしてこの判決は経済的に弱い立場の独立系レーベルに対し重い足枷となる危険性があります。古楽などこれまで積極的に演奏されず、慣用譜もないような音楽を録音するとなると、どうしても音楽学者の協力が必要です。これまでは古楽は完全にパブリック・ドメイン扱いで、20世紀音楽のように著作権料を気にせず古楽を積極的に録音してきたハイペリオン・レーベルにとって、今回の判決が確定すると経済的負担を強いるものになります。その結果録音ペースが鈍る心配が出てきます。そもそもハイペリオンの様な家族経営の小さい会社には今回の50万ポンド支払いの負担は重いです。マイ・フェイバリットなレーベルの一つのハイペリオンの今後にも暗雲が漂ってきました。

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